作品紹介
かつて人魔が手を取り合い、共存する時代があった。 共に喜び、怒り、悲しみ、笑い合った平和な時代。 しかし、それも遙か昔の話。 今は互いの覇権を賭け、争い合う地獄が広がっていた。 青年もまた英雄として祭り上げられ、戦場へと赴き、数多くの魔物と相見え、そして殺してきた。 言われるがままに魔物と戦い、殺し…… いつしか青年は、それに疑問を覚え始めたのだ。 本当に自分のしていることが正しいのか、これが平和に続く道なのか……と。 疑問を覚えた青年が戦えるはずもなく……彼は逃げ出した。 英雄と祭り上げてくる民衆から。 血と悲鳴が飛び交う戦場から。 そして……自分自身から。 どこまで逃げたのか、ただひたすら逃げた青年の目の前に突如、大きな館が姿を現す。 曇天の空に浮かぶ怪しげな月、枯れた木々、不気味な館。 まるで青年の心を映すかのような光景に、青年の足は止まる。 困惑する青年の前で館の扉が開き、一人の女性が姿を現す。 見慣れた姿の女性。彼が殺してきた魔物。 それを知ってか知らずか、女性は青年を値踏みするように見つめると、小さく微笑み口を開く。 ――彗星館へようこそ人間 ここは弱き者の楽園 全てを忘れ 死にゆく時まで ゆるりと過ごしなさい―― 妖艶な女性の言葉に誘われるかのように、青年は扉をくぐる。 その館は、青年に何をもたらすのだろうか……
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