作品紹介
川辺にあるその旅館、小さく古いながらもなかなか繁盛していたそうだ。ご主人を5年前に亡くし、美人熟若女将の器量か、はたまた腕の良い板前の料理のおかげか、その秘密は常連の客以外知る由はなかった。相も変わらず客を切り盛りする女将、和服の似合う女将のその細腕に一体何の秘密が?「お久しぶりですわ、夏見さん」年に何度か訪れる作家の夏見である。「女将、今日この日をいかに楽しみにしてきたか解るだろう?」「先生ったら」と下を向いてほくそ笑む女将であった。又別の部屋では「お初にお目にかかります女将のゆかりでございます」「此処は素晴らしい、身も心も癒されると密かに評判だと県会議員の横山先生に紹介されてね」「あら最近お顔を拝見しておりませんが先生にもご贔屓にして頂いてますわ」二人の部屋から笑い声が漏れるのを、廊下の隅で聴いている板前の太郎。「ニオウな女将、きっと女将にはとんでもねえ秘密があるぜ」と独り言を言いつつ、ある常連客と女将の決定的瞬間をのぞき「ヨシ」とよからぬたくらみを企てゆかり女将の寝床に忍び込むのだった…。
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